「聞き流すだけペラペラ」「聞き流すだけで英語マスター」みたいな広告をよくWeb広告や書籍の広告で見かけますが、実際どの程度、効果があるのか気になりますよね。「怪しいな…」と思いながら「でも、もしかしたら本当に効果があるのかも」等、考えを巡らした経験がある方も多いのではないでしょうか。
実は、聞き流しの効果はすでに第二言語習得研究の観点から、否定されています。正確には、内容を認知しない聞き流し、または、そもそも内容を理解できない英文の聞き流しについては、効果を期待できません。一方、聞き流しの定義によっては別の捉え方もできて、聞き流しながら、部分的に流れてくる英文に意識を向け、その内容を理解できる場合においては、一定程度の効果が期待できます。
本記事では、聞き流しの効果について検証した内容を紹介したいと思います。
言語学的な見解
なぜ子供は喋れるようになる?
聞き流しの効果を推す常套句の一つに、「浴びるように英語のシャワーを聞き続ければ、子どもが言語を習得するように、大人も喋れるようになるはず」というのがあります。確かに、子供が言語を取得していく過程において、語彙や文法を特別に習った訳でもないのに、彼らは正しい日本語をしゃべります。それでは、この理屈が大人にもそのまま適用できるか?と言われると、そんなことはないというのが、言語学の見解です。
※「外国語教育 ―理論と実践― 第41号 ”外国語習得のウソ・ホント!? ”」から引用
上記、母国語と第二言語取得における違いを示しています。
例えば、1.の「少なくとも1つの言語を取得している」について、我々は日本語を既に取得しています。既に取得している言語がある場合、脳はそれをベースに第二言語を処理・構築するため、母国語が邪魔になるケースがあるのです。我々日本人が「L」と「R」の聞き分けが難しいのは、このためです。
その他、学習する年齢であったり、世界に対する認識等、大人と子供には、言語学上認められているスタート地点の違いがあり、これらを無視して、「子供と同じように」というのは、前提を無視した乱暴な主張なのです。
そもそものインプット量
別の視点で考えてみたいと思います。聞き流しで言語を取得しようと考えたとき、どの程度の時間量を想定すべきか、見てみましょう。
仮に毎日5時間聞き流しを行い、それを1年間続けた場合、トータルの聞き流し時間は、5×365=1825時間。一方、乳幼児が言語を取得するのにかかる時間は、 12 時間(1 日に乳幼児が起きている時間)× 365 日× 4 年間=17,520 時間※で、一桁違います。
米国務省機関であるFSIの調査では、日本人が英語を不自由なく使えるようになる為に必要な時間は、2200時間と算出しています(英語学習に必要な時間【2200時間】-日本人が英語を喋れない理由-)。上記17,520 時間という膨大な時間を、もし大人が第二言語取得に別の方法で取り組むことができれば、それこそ「ペラペラ」なり「英語マスター」を豪語できるだけの英語力が身につけられそうです。大人は大人の勉強法があり、適切な方法に則りロジカルに学習を進めていくべきなのです。
効果のある聞き流し
一方、冒頭で述べた通り、流れてくる英文に意識を向け、その内容を理解することが出来る場合は、ある程度効果が期待できます。これは、その時間においては、通常のリスニングと何ら変わらないためで、意識を傾けた時間だけ、学習時間としてカウントして良さそうです。
聞き流しの内容は?
ただし、聞き流す内容によっては、仮に意識を傾けたとしても効果がゼロになってしまう場合があります。それは流れてくる英文が理解できない場合です。そもそも理解が出来ない場合は、英文に耳を傾けようという気にもならないため、流れてくる英文は単なる雑音と化してしまいます。
したがって、聞き流す内容は、自分が理解できる内容、かつ、耳を傾けたくなる楽しい内容である必要がありますが、学習初期~中期において、これらの教材を探すのはなかなか至難の業です。例えば、オーディオブックで読みたい本を英語で聞き流す、なんてことが出来れば理想的ですが、どんなに平易な内容であっても、初聴で内容を理解するのは非常にハードルが高いですし、聞き流しで部分的にしか聞かないのであれば、なおさらです。学習済の教材を使えば、理解はできますが、内容はすでに把握しているため、わざわざ耳を傾けようというモチベーションが上がりません。
聞き流しは上級者向き?!
したがって、聞き流しで学習効果を挙げられるのは上級者のみという事になりそうです。逆に上級者であれば、ニュースを流しっぱなしにして、気になるニュースの時だけ耳を傾ける、とか、Youtubeで音声だけ流して、自分が興味がある内容の時だけ耳を傾ける等ができそうです。上級者になると聞き流しに限らず、学習の手段が格段に広がるため、もはや学習というよりも生活の一部に英語を取り入れながら、自然に英語力をアップさせる、という事ができます。
まとめ
結局、言語取得には魔法の方法はなく、地道に学習し続けるしか道はない、というのが、お決まりですが結論になります。
ただし、学習を続けていく上で、自身の学習方法が正しいのか?という疑問は、常に頭をよぎるものですし、もっと効率的で楽な方法があるのではないか?と考えるのは、ある意味仕方がない事だと思っています。その視点に立った時に、魅力的に”見える”学習方法をきちんと調べて、自分の中でその是非をきちんと判断していく、という作業は、自身の迷いをなくし、選択した学習方法に自信を持つという意味において、大切なことではないでしょうか。
本記事が、その一端を担うことが出来れば、幸甚です。
以上お付き合い頂きありがとうございました。
※白畑・若林・須田(2004)を参照